第23回坂田記念ジャーナリズム賞(2015年)

(敬称略)

第1部門(スクープ・企画報道)

第4回東日本大震災復興支援坂田記念ジャーナリズム賞

(今回から福島、宮城、岩手の被災3県のうち各年1県を対象とし、今回は福島県内のマスコミ。来年度は宮城県もしくは岩手県を対象とする予定)

放送の部

応募なし

第23回坂田賞授賞理由

第1部門(スクープ・企画報道)

新聞の部

【坂田記念ジャーナリズム賞(2件)】
★読売新聞大阪本社「ふるさと あしたへ」取材班
 代表=編集局社会部次長・広瀬和勇(ひろせ・かずお)
 シリーズ連載企画「ふるさと あしたへ」

推薦理由

 日本の人口減少と東京一極集中は大きな問題をはらんでおり、2014年には「地方自治体の多くに消滅の危機が迫っている」という民間組織の調査も発表され、地方創生は日本社会にとって緊急課題になっている。
 この課題に、地方からの視点に徹して取り組み、人口減や高齢化が全国平均より10年以上前から出現している四国に注目し、その実態から問題解決の糸口を探ることを目的に企画を連載した。厳しい地方の現実報告にとどまらず、特産物の海外販売を模索する自治体や、都会にはない地方の魅力に可能性をみつける若者など、従来にはない動きや感性を描き、地方創生の萌芽も浮き彫りにした。
 同時に近畿、中国、四国の各府県地方版とも連携。読者の反響を呼び、ジャーナリズムの役割、解説や提言の重要さを改めて示している。

授賞理由

 都会との経済格差と少子高齢化が直撃する地方の課題を、四国にスポットを当て長期的な展望を模索しつつ掘り起こされた大型企画になっている。地域ジャーナリズムの枠を超え、全国的な関心をあつめたことは高く評価すべきだ。また、問題点や課題を提示するだけでなく、あまり知られていなかった具体的な事例を掘り起こしており、情報価値もあるうえ、それにかかわる人々の足跡や熱意・思惑が描き出され読み応えのある連載記事となっている。
 地域からの報告のみにとどまらず、各回のトピックスに関連した社会政策を紹介していることも、地方創生の関わる課題を考える際に参考になる内容であり、新聞報道の力を再認識させる報道だ。

★毎日新聞大阪本社社会部「哀歓記」取材班
 代表=社会部副部長・前田幹夫(まえだ・みきお)
 連載コラム「哀歓記」

推薦理由

 事件や事故の現場には様々な人間模様が複雑にからんでいる。加害者や被害者という当事者の感情や思いに接することで、こうした事件事故の理不尽さや社会的背景を伝えるのが報道の一つの目的でもある。しかし、そのすべてが紙面に掲載されるわけではない。
 哀歓記は、大きなニュースにならなかった事件も含め、現場の記者が事実に真摯に向き合うことで、ストレートニュースでは伝えられない人間ドラマを、丁重な取材と冷静な文章表現で、事件記者が描くイラストとともに読者に提供している。ネットにも掲載され、全国の読者から意見も寄せられている。現場主義、事実主義を改めて掲げ、事件報道における新たなジャーナリズムのあり方を示唆する報道だ。

授賞理由

 インターネットが社会を席巻し、活字離れも含め、新聞ジャーナリズムのあり方が様々な側面から問い直されている。新聞は特徴ある手法で、独自のニュースを発見し、その報道価値を見せる必要に迫られている。哀歓記は、事件と事実の流れの間に隠れがちな、時空を超えた重要なストーリーを読者に提供している。
 街中で起きた交通事故、事件、児童虐待…様々な人々や出来事に出会う記者が、新聞に多彩な記事を書くが、読み応えのあるコラムは不可欠なコーナーだ。それぞれの記者たちの思いと肉声が込められ、読者の反響も伝えられている。取材する側が、読者が今新聞に何を求めているのかを知る手がかりにもなる報道といえる。

【坂田記念ジャーナリズム賞特別賞(1件)】
★神戸新聞政活費問題取材班
 代表=編集局報道部神戸市政担当キャップ・紺野大樹(こんの・たいき)
 神戸市議会の政務活動費不正流用をめぐる一連の報道

推薦理由

 神戸市議会の自民党系会派が、調査委託費として3年間に1120万円を支出したとする収支報告書に添付された領収書の住所に業者が存在しないことをスクープし、地道な業者取材・証言から、同会派による架空委託による政活費の裏金化が常態化していた事実を暴露し、会派の“裏帳簿”などに基づく不正流用を次々と報道した。
 この前年の2014年6月、本紙スクープがきっかけになった兵庫県議会議員の「号泣会見」以後、全国的に地方議会議員による政務活動費不正が暴露されているが、市民の憤りを受け、膨大な資料の読み込みなど地方紙として「兵庫県内の議会の実情を徹底的に調べる」という姿勢が、その後の一連の報道に結実。結果的に、自民党系会派は3800万円の「税金」を市当局に返還したが、市議会による刑事告発など事態は今も動いており、継続報道の重要性を見せ付けた。

授賞理由

 号泣会見で有名になった兵庫県会議員問題のスクープにはじまり、神戸市議会議員のずさんな政務活動費の使用状況を明らかにし、その後の議会対応に影響を及ぼした点が評価できる。今回の受賞対象ではないが、一連の報道をうけた包括的な継続として、本年1月1日からスタートした連載「不正の温床」に繋がっている点も注目に値する。
 地元紙ならではのスクープを含め、きめの細かい報道は政務活動費の実態をよく伝えており、その存在そのものを問いかけている。また、地方分権化と現実の地方政治のあり方をどう結びつけて考えていくのかなど、政活費にとどまらない今後の報道に期待できる。

放送の部

【坂田記念ジャーナリズム賞(2件)】
★毎日放送「映像’15」番組制作チーム
 代表=毎日放送報道局番組センター長・澤田隆三(さわだ・りゅうぞう)
 「映像’15 白い炎~放火殺人20年の真実」

推薦理由

 1995年7月に大阪市東住吉区で11歳の少女が死亡した火災で、放火殺人罪に問われ無期懲役刑が確定、服役していた母と内縁の夫に、2015年10月、大阪高裁は再審を決定し、2人は20年ぶりに釈放された。高裁は、捜査段階での自白の信用性を否定したうえ、火災原因についても自然発火の可能性を認定した。
 取材班は釈放直後から女児の母親、青木恵子さんに密着し、警察の強引な取調べの様子などを初めて肉声で語った。番組ではこの事件を追い続け、13年には、漏れたガソリンが風呂釜の種火で引火した自然発火の可能性を弁護団の実験映像で初めて報道。一連の報道から新情報も寄せられるなど、裁判の流れに一石を投じた。緻密な調査報道の集大成になった。

授賞理由

 再現実験による引火の可能性やガソリン漏れに関する情報収集など、弁護団がどのように疑惑を晴らしていったかという経緯を、この報道で具体的に知ることができる一方、警察や検察は、ガソリン漏れの可能が早くから指摘されていたにもかかわらず、その事実を明らかにしなかったことが浮き彫りにされた。
 また、司法判断にも問題があったことが明かされている。一審判決で動機が必ずしも明確でないことに言及しながらも、放火殺人と断じている。しかし、生命保険は、保険外交員のアドバイスで学費保険から切り替えたもので、裁判でも証言されていた。冤罪といえる。自白を強いられ有罪になれば、弁護団がそれを覆す証拠を示すには膨大な時間と資金を要する。人権侵害を防止する仕組みがこの国で機能していないことへの警鐘を鳴らす、意義ある報道だ。

★朝日放送「ベトナム戦争の真実」取材班
 代表=報道局ニュース情報センター報道企画担当部長・藤田貴久(ふじた・たかひさ)
 「ベトナム戦争40年目の真実」

推薦理由

 20世紀最悪の戦争と言われたベトナム戦争。今回の番組は終結から40年が経過、ようやく明らかにできた事実と戦争に翻弄された日越両国の人々を描いた。1作目は太平洋戦争後、ベトナムに残った旧日本兵とその家族の物語だ。ベトナム独立後、旧日本兵は強制送還され、ベトナム人の妻子と引き裂かれた。妻子は差別を受け厳しい生活を強いられたが、旧日本兵は妻子のため一貫してベトナム支援を続けた。パソコンを通じ初対面する親子のシーンでは周囲の人からも涙が溢れていた。この人たちも別の旧日本兵が残した家族だったのだ。一作目はこうした隠されていたヒューマンドキュメントを伝えたが、2作目は戦争終結の象徴的場面となった南ベトナム政府大統領官邸への戦車突入映像が再現映像だったことを明らかにした。なぜ、再現映像だったかを解いた意義も大きい。大国に翻弄される北ベトナムは世界の世論を味方につけるため情報戦に力を注いでいた。この当時は中ソ対立が背景にあったが、こうした背景とベトナム側の情報戦略について軍幹部からの証言などから描いたもの。

授賞理由

 大戦終了後、ベトナムにとどまり、対仏独立戦争に加わった元日本兵の過去を今を描いて興味深い。ベトナム人女性との間に男児も生まれたが、日本への帰国を強いられ、以降、友好協会の活動にも携わってきた。今、その孫が留学生として日本に滞在している。市井に暮らす老いた元日本兵とオジサン世代になった子どもたちの姿が過ぎゆきた歳月を伝え、視聴者をさまざまな思いに誘う趣深い作品になっている。第2話はベトナム戦争終結の象徴になった大統領官邸への戦車突入の映像が「再現映像」であったことを伝えていて衝撃的だ。当事者の証言やフランス人カメラマンの足跡も辿り、背後に政治の思惑があったことを明らかにしている。これも戦争秘話の発掘として見応えがあった。

【坂田記念ジャーナリズム賞特別賞(1件)】
★三重テレビ放送「戦争に消された巨大地震」取材班
 代表=報道制作部部長代理・平田雅輝(ひらた・まさてる)
 特別番組「戦争に消された巨大地震~昭和東南海地震を語りつぐ~」

推薦理由

 太平洋戦争の末期、昭和19年12月7日に発生した昭和東南海地震。熊野灘沖を震源にしたマグニチュード7.9の巨大地震で三重、愛知県などを中心に大きな被害をもたらした。しかし、戦時中で東海地方の多くの軍需工場が被害を受けたため、政府による情報統制が行われ、新聞やラジオで大きく伝えられず、詳細な記録も残っていない。三重テレビは当時の住民の避難行動などを当時の被災者らに取材、戦後70年を機会に、当時の情報統制の状況、合わせて県内の空襲被害の状況を紹介し、情報統制の恐ろしさを伝えた。“生き証人”は80歳を超え、生の声を伝える最後の機会であり、将来予想される南海トラフ地震に備え、過去の災害の教訓を伝える防災教育番組にもなった。

授賞理由

 ジャーナリズムの仕事が現在の事象を正確に記録し、位置づけ、読者や視聴者に自分たちの生きる社会について考え、行動させることだとすれば、この作品は防災・減災情報さえ時の権力に操作されていたことを昭和19年の東南海地震を例に描き、その教訓をどう現代の私たちは受け継ぐべきかを具体的な実践活動として描いた秀作だ。今、政権と経済権力そして一部学者たちが、福島の原発事故の真相をあいまいにして全国で原発の再稼働を図っているが、過去の災害の情報統制から学ぶべきことは多く、今回の作品はそれをよく伝えている。

第2部門(国際交流・国際貢献報道)

新聞の部

【坂田記念ジャーナリズム賞特別賞(2件)】
★朝日新聞大阪本社「モンゴル巨大陣地」取材班
 代表=社会部編集委員・永井靖二(ながい・やすじ)
 ノモンハン戦跡付近のモンゴル東部に現存する旧ソ連対日侵攻拠点の発見にからむ一連の報道

推薦理由

 第2次大戦末期、旧満州侵攻のため極秘裏に建設していた軍用鉄道や巨大陣地跡を民間調査団も協力を得て、世界で初めて確認したと報道した。取材班はロシア側の新資料を発掘することを通じ、ノモンハンを、これまであまり知られていなかった日ソ戦に新たな光を当てる場として意義づけた。
 戦跡は広大な草原の中にあり、上空からの撮影が欠かせないことから、取材班はモンゴル当局と折衝し、本社機による10日間の空撮取材を行い、遺構の現状や規模を明らかにした。また、取材班がみつけた新たな資料はロシアが近年、モンゴルに開示したもので、旧ソ連が対日参戦を1942年6月の時点で、すでに準備していた事実を裏付けるなどの報道内容は意義深いと考える。

授賞理由

 ノモンハン事件は近年、第2次世界大戦の「序章」として位置づけられるようになってきたが、事件自体や内容、経緯がとりわけ若い世代には一般的に詳しく知られていない。戦後70年企画の一つとしてこのテーマを取り上げ、旧ソ連崩壊後入手可能となった歴史的記録を掘り起こすとともに、航空写真で全貌を紹介しているのは評価できる。
 内容的にすでに研究者にとって定説的な側面もあるが、元従軍兵士の証言、作家や歴史家の作品を取り上げながら、学問とメディアが協働して国際的な枠組みから真実に迫ろうとした試みになっている。また、太平洋戦域とは別の北東アジアの戦域にスポットを当てた趣旨も理解できる。国際貢献・交流の視点からは少し離れている側面もあるが、質の高い報道だ。

★産経新聞社会部「明美ちゃん基金」取材班
 代表=大阪本社社会部長・堀洋(ほり・ひろし)
 「明美ちゃん基金」によるミャンマー医療支援の一連の報道

推薦理由

 「明美ちゃん基金」は、先天性の心臓疾患に苦しみながら、経済的な理由で治療を受けられない子供たちを救う目的で、産経新聞社の呼びかけで1966年に設立された。今回の報道は、個々の子供を救う基金が、日本とゆかりの深いミャンマーの小児医療支援に取り組むにいたった記録になっている。
 基金運用は近年、日本国内でアジアの子供の治療に適用されてきたが、国立ヤンキン病院から医師派遣要請があったのをきっかけに、ミャンマーの医療レベル向上に着手。まず、外科内科10人の医師団をミャンマーに派遣し、治療しながら同国の医師を研修する事業を開始した。軍政から民政への移行が進むミャンマーで、多くの子供たちの治療に成功している。基金の活動を後方支援する報道の成果ともいえ評価できる。

授賞理由

 発展途上国における医療支援の現場を丹念に報道することで、医療と通じた国際交流、さらには民主化の促進という可能性をも展望している。基金創設50年のキャンペーンとも連動し、ジャーナリズムの社会貢献の側面からも評価できる。
 発展途上国に対しては、経済的・社会的支援のとどまらず、こうした医療などの社会制度に対する人材・情報面の支援も重要だ。また、政府間のみならず、民間の機関や市民がそれを支えることの重要性にも改めて気づかされ内容だ。
 メディアが直接の経営にはプラスにならない企画に消極的になりつつあるといわれる中で、こうした連載はメディアの実践活動継続のモデルとしても評価できる。ミャンマーの現状を伝える現地ルポがもう少し加われば、より理解しやすかったという側面もあるとはいえ、意義ある報道だ。

放送の部

【坂田記念ジャーナリズム賞(1件)】
★関西テレビ「ザ・ドキュメント京の摺師」取材班
 代表=報道センタープロデユーサー・兼井孝之(かねい・たかゆき)
 ザ・ドキュメント「京の摺師~パリに渡った浮世絵」

推薦理由

 京都の木版画工房・竹笹堂社長の竹中健司さん(45)は木版画作家だが、もう一つの顔がある。「竹中木版」の5代目摺師だ。摺師の伝統を父から継承し、後進を指導しながら、大学などと協力、古木版の調査と復刻、修復再生に力を尽くしてきた。「眠ったままの古版画・版木を再生し、次世代に」と竹中さんは国内だけでなく、海外で日の目を見ずに埋もれている浮世絵の版木再発見に取り組んでいる。
  2015年夏、竹中さんはフランス国立図書所蔵の歌麿版木を摺るためパリにいた。その数年前、同図書館で歌麿の「大首絵」を彫った版木に出会った。知らない絵柄だった。歌麿のオリジナル版木は世界に4枚現存するだけ。埋もれていた歌麿の美人画? 何度も交渉を重ね、版木を摺る許可を得た。この版木が歌麿作かどうか、日仏の見解は分かれているが、日仏の文化交流にとどまらず、国境と真贋を超えて、美の世界で本ものとは何かに迫る番組になった。

授賞理由

 京都の町中で木版画工房を営む摺師の世界を深く描いている。摺師は歌麿が使用したという古版木が保存さているパリの図書に行く。パリや自分の工房で摺りを行い、鮮やかな絵が浮世絵が出現する。その美しい画像に引き寄せられた。カメラワークが優れ、京都の路地や仕事場など生活空間の佇まいが良く伝わってくる。また現代の木版画を制作する絵師、彫師、摺師たちが育ち、伝統工芸が次世代に伝えられていく様子も描かれ、京都の底力を国際的舞台を背景によく描いている。

【坂田記念ジャーナリズム賞特別賞(1件)】
★NHK大阪放送局アナウンス「関西発ラジオ深夜便」制作班
 代表=大阪放送局アナウンサー・赤木野々花(あかき・ののか)
 「戦火の中東・取材報告~ジャーナリスト・玉本英子」

推薦理由

 玉本英子さんは中東の紛争を取材して21年目の大阪在住のジャーナリストだ。現地で目の当たりにしたのは戦争被害者が家族を殺された恨みから武器を手にする姿だった。「戦争では被害者は加害者」。憎しみの連鎖が生む深い闇に途方にくれながら現地報告してきた。そしてその実相に「日本は70年間、平和を守り続けてきたが、いったん戦争に巻き込まれたらどうなるか分からない」との危機感を募らせてきた。今回の深夜便ではそんな玉本さんを招き、中東の暮らしに触れながら出会った人々が否応なく戦禍に巻き込まれていく様子を語ってもらっている。玉本さんの言葉によってリアルに語られる戦争の不条理さ、悲しいてん末が聴く者の胸に迫っていく。玉本さんの貴重な報告を率直な言葉で引き出した秀れたインタビュー番組になった。

授賞理由

 日本から分かりにくい中東の状況を分かりやすく、またリスナーに考えるべき素材を提供している。今や世界の鬼っ子となった過激派ISであるが、元戦闘員を取り上げ、ごく普通の若者が銃を取るにいたるプロセスを語ってくれ、昨日の被害者が今日の加害者となりうる流れに私たちもそうなのだ、と思わせられる。玉本さんの視線は優しく、イラクでヒロシマを伝える展示会を開くなど子どもたちとの交流も重ねている。音声のみのラジオは映像がない分、想像力を喚起させてくれるが、このラジオ深夜便はその典型的な例だ。

第4回東日本大震災復興支援坂田記念ジャーナリズム賞

新聞の部

★福島民友新聞社「復興の道標」取材班
 代表=報道部長・佐藤掌(さとう・しょう)
 連載企画「復興の道標~ふくしまの今を問う」

推薦理由

 福島県民は被災者として「自立」と「自律」を実現できるのかー東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から5年になろうとする中、県民生活や地域経済への影響は多岐にわたり、今後進むべき方向を県民に問い掛けた連載だ。例えば賠償金をめぐる県民間の格差など本来は真剣に向き合うべき課題がタブー視されてきたことは否めない。また放射能への不安は県内に残った者と県外自主避難者との溝を深めてきた。こうしたタブーを乗り超え、自立への道を真正面から議論することが原発事故との長い闘いに挑む被災者に真に寄り添うことと信じ、第1部では「支援慣れ」の実態を取り上げ、自ら生きる力と誇りを問い掛けた。
 読者からの反発もあったが、多くは共感で、多様な意見を丁寧に示す「番外編」も掲載するなど、震災報道に一石を投じている。

授賞理由

 福島県は東日本大震災で地震、津波に加え、原発事故という世界でも注目される事故の被災県だ。放射能除染から廃棄物の処理などが長引き、原発周辺の自治体ではいまだ、避難先から帰還がかなわない人が多く、いつ終わるかも分からない不安に覆われている。福島民友の今回の企画はともすればタブー視されがちな賠償金問題や「支援慣れ」などに踏み込み、地元紙しかできない実態の解明を進め、また読者からの反響についても反発や共感を含め、「番外編」としてフォロー、気持ちのこもった紙面展開だ。地元紙の役割を果たす連載で高く評価できる。

坂田賞一覧