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第33回坂田記念ジャーナリズム賞(2025年)

(敬称略)

第3回海外取材サポート事業

(敬称略)

★ 朝日新聞大阪本社映像報道部写真記者・田辺拓也(50万円)

★ 毎日新聞社会部大阪グループ専門記者・鵜塚健(50万円)

※訪問国、取材先、取材テーマは発表段階では非公開。第34回坂田賞冊子、ホームページに寄稿してもらいます。

※サポート事業の概要は、「お知らせ」(トップページ)の第33回坂田記念ジャーナリズム賞実施要領をご参照ください。

第2回海外取材サポート事業について

2025年3月の発表では社名と担当者名のみでした。ここで取材テーマ、狙い、訪問先、紙面・放送等の概要をお知らせします。

第33回坂田記念ジャーナリズム賞 推薦・授賞理由

第1部門(スクープ・企画報道)

新聞の部

★ 神戸新聞社「あの熱狂の中で」取材班
代表=高田康夫・報道部記者
企画報道「SNS選挙 シリーズ連載『あの熱狂の中で』」

神戸新聞社の推薦理由

 兵庫県知事のパワハラなどを巡る告発文書問題に端を発した2024年秋の知事選ではSNSで誤情報や誹謗中傷が拡散し、斎藤元彦氏への熱狂的な支持と反発で県民の分断が深まった。この事態に、私たちは選挙への向き合い方をアップデートする必要があると考えた。「熱狂を引き起こすSNS選挙とは何か」。検証に当たって二つの方針を立てた。一つは有権者のナラティブ(物語)に向き合うこと。もう一つは取材を通して感じた気づきや迷いを率直に示すこと。いずれも低い目線を心がけようと話し合い、連載「あの熱狂の中で」を始めた。
 連載ではこれまでに四つの選挙を取り上げた。まず知事選ではSNSによって人々の心にさまざまな物語が生じ、家庭や職場に対立を持ち込む過程に迫った。続く県内の首長選では、当選に向け知事選の「熱狂」の再現を試みる陣営を追い、戦略を探った。
 さらに参院選では、既成政党やメディアへの不信が「熱源」となったうねりを描き、選挙報道の検証に踏み込んだ。そして宮城県知事選では、有権者を巻き込む「大きな物語」の作られ方に迫った。
 SNSは怒りをあおりやすい。私たちは誤情報への対応だけでなく「多様な立場を理解しあう社会」のあり方が問われていると感じる。第5部では文書問題の調査に携わり、自死した元県議への誹謗中傷がどのように生じたかを取り上げている。
 また連載と連動して特集「民意×熱狂」に取り組み、SNS選挙の課題を詳報した。

授賞理由

 SNS上の「熱狂」が選挙の帰趨を決めたことで注目された2024年兵庫県知事選を契機として、以降の自治体、国政選挙にも題材を広げ、地元新聞の総力を結集して取材した圧巻の長期連載として高く評価できる。特に、有権者の声を丹念に聞き取り、フェイクニュースに騙されていたわけでもない人がどのような理由で投票したかを明らかにしている。このような現象を生み出した地域の当事者としての覚悟を感じる企画でもあった。「オールドメディア」の実力と矜持を感じさせる報道で、読み応え十分だった。

高田康夫・取材班代表の受賞スピーチより

 (兵庫知事選で)なぜ、この投票行動となったかを解き明かし、多くの人がお互いの立場を理解して、頭ごなしに批判するだけではなくて、対話を進めていけるような地域社会にしたいと考えました。

新聞の部(特別賞)

★ 京都新聞社戦後80年取材班
代表=松下亜樹子・報道部長
戦後80年企画「京都戦時新聞」と連載「巡り糸」

京都新聞社の推薦理由

 京都新聞の戦後80年報道は、戦時中の日本社会と、終戦から80年たった今を生きる私たちの足下を見つめる、縦と横の時間軸を意識した二つの大型企画で構成した。一つは、戦争中の京都新聞の記事を平易な現代語で再編集した「京都戦時新聞」。もう一つは、過去からの見えない“糸、が時にもつれながら現在に結びつくさまを描いた連載「巡り糸」。この2シリーズで過去と現在をつないだ。
 「京都戦時新聞」(2024年12月8日~2025年9月7日)は、日米開戦から降伏文書調印までの4年間に京都新聞が発行した紙面から記事を抜き出して再構成し、計45号を制作した。専門家の監修の下、「記者が現代語訳とレイアウトを担当した。戦局と地元の動きを伝える記事を選んで「時代の空気」を再現した。戦争遂行に加担した小紙の過ちにも向き合った。紙面は教育現場でも活用され、講演・出張授業の依頼も寄せられている。
 一方、「巡り糸」(計6部、2025年1月3日~12月29日)は、忘却の家族史や戦争遺品などを手がかりに、戦争の思想、価値観が現在進行形で市民社会に影響を与えている実相に迫った。連載は史料の散逸防止にもつながった。有名画家の遺品の戦争スケッチ画は公的資料館での永久保存が決まった。取材を通じて京滋の自治体が「戦争トラウマ」元兵士の病状記録を初めて開示し、戦争被害を裏付ける一級資料が手つかずのまま保管されていることを明らかにした。

授賞理由

 「京都戦時新聞」は戦時期の自社の報道内容を現代的な言葉に直し、そのまま素材として提供するというストレートさゆえに訴求力が高い企画となった。小さな囲み記事にも当時の市民の暮らしぶりや時代の空気が映し出されている。「大本営発表」をそのまま垂れ流し「戦争遂行に加担した過ち」に向き合う趣旨も込められており、それはSNS時代の「偏向報道」を問う糸口にもなるだろう。また、「巡り糸」は戦時と現代をつなぐさまざまな発見や取り組みを地域から掘り起こして伝えている。いずれも、戦後80年が経過し、記憶の継承と共有が難しくなった今だからこそ求められる意義深い報道である。

松下亜樹子代表の受賞スピーチより

 なぜ日本があの戦争に突き進んでいったのか、京都戦時新聞を読むと時代の空気が伝わってきて、その中にいたら自分も戦争の旗を振る側にいたかもしれないと思ったという読者投稿を複数いただきました。そこから考えていくお手伝いができたのが望外の喜びでした。

放送の部

★ NHK大阪放送局「シリーズ小さき声に向き合う」制作班
代表=森下光泰・コンテンツセンター第3部 チーフ・プロデューサー
「JOBK100年 シリーズ小さき声に向き合う 『誇りうるもの ~部落問題の100年~』」

NHKの推薦理由

 放送開始100年(大阪放送局100年)を機に、NHK大阪放送局が力を入れてきた部落問題をテーマに、「JOBK100年シリーズ小さき声に向き合う『誇りうるもの ~部落問題の100年~』」を制作。NHKに蓄積されたアーカイブ映像を活かしながら、放送が部落問題をどう描いてきたのか、部落差別の現実と差別解消の取り組み、被差別部落の暮らし、歴史や文化・産業、さらには現代の課題までを取材して伝えた。差別問題だけに収斂せず、被差別部落とそこに暮らしてきた人びとの姿を多面的に映しだし、「誇りうるもの」として肯定的にとらえるメッセージを発信する番組を放送した。
 放送が障害者をどう描いてきたのかを功罪ともに振り返り、マイノリティーを排除する ような世相への危機感、障害者も健常者もともに生きる社会の大切さを訴えたシリーズ
2本目『障害者と放送~過去から未来へ~』とともに、放送100年を機に、過去の過ちへの反省を踏まえつつ、「人権課題に向き合う」というメディアが果たすべき役割を改めて確認した重要な取り組みとして推薦する。

授賞理由

 NHKに蓄積されたアーカイブ映像で部落問題の歴史を振り返りつつ、部落問題のいまを客観的に伝えた。関西以外にも目が向けられており、地域や当事者の多様性への理解が深められる。墓石の差別戒名や、伝統的な仕事(わらじ編み、皮なめし、太鼓用の皮革の選別など)の様子など、実態を伝える映像に迫力があった。エピソードの中ではコミュニティ内部のネットワークがもつ柔軟性、強靭性が印象に残った。若者や外国ルーツの人たちも様々な場面に登場し、近年の社会変化が映し出されている。この作品もまた貴重なアーカイブとして今後に引き継がれていくだろう。

森下光泰・制作班代表の受賞スピーチより

 被差別部落はとても大事なものがたくさんある場所だと感じてきました。被差別部落出身の人たちにとって大切なふるさとであることを超え、この社会の誰にとっても大事なものがたくさんあるところだと思い、徹底的に肯定的なメッセージであろうして番組制作に取り組みました。

第2部門(国際交流・国際貢献報道)

新聞の部

★ 読売新聞大阪本社社会部「外国人1割時代」取材班
代表=増田弘輔・大阪本社社会部次長
企画「外国人1割時代」

読売新聞社の推薦理由

 日本に移り住む外国人が急増する中、様々な矛盾や課題が噴き出しつつあることにいち早く着目し、掘り下げた長期企画だ。机上の議論やSNS上の極端な言説とは一線を画し、徹底した現場取材で事実を突き詰め、実際に何が起きているのかを明らかにし、議論を提起したもので、新聞報道の価値を改めて示した。
 連載はこれまでに6部、計22回を掲載した。第1部「高度人材の闇」 (2024年12月)、第2部「広がる中国人社会」(2025年2~3月)、第3部「介護の現場で」(6月)、第4部
「ルポ地域から」(9~10月)、第5部「移住の裏で」(10月)、第6部「揺らぐ日本語試験」(11月)。
 中国からの移住目的で「経営・管理」ビザを取得し、特区民泊を経営するケースが急増していることを明らかにした2月28日朝刊の特報は、経営・管理ビザ制度などの改正見直しにつながった。付随する連載第2部、第5部とともに大きな反響を呼んだ。
 第1部では、高度な専門人材のビザで来日した外国人が単純労働をさせられるケースを密着取材し、ブローカーの存在も暴いた。第4部のルポでは、2025年夏の参院選で外国人政策が争点に浮上し、外国人排斥論も見られるようになったのを受け、現実はどうかを示すため、記者が5つの外国人集住地域に通い詰めた。
 一貫して、理想論に陥らぬよう客観的な目線を意識した。いい面も悪い面も含め、一筋縄ではいかない「共生」に向けた材料を提示し続けた。

授賞理由

 近く外国人1割時代を迎えるという。外国人が働き、担い、往来している現場をレポートしつつ、その時代の現況と課題を探っている。「外国人政策」については極端な議論が国政選挙でも展開され、またネット内では悪質なデマが蔓延する中、冷静で客観的な視点に立った取材と記事は高く評価したい。一部で外国人人材を不当に差別し搾取する現状はこれまでも報道されてきたが、排外的な傾向にある日本社会の問題点がさらに浮き彫りになっている。また大阪においては「特区民泊」による中国人の増加に、該当地域では戸惑いの声も上がる中、その実態を冷静に取材し、問題のありかを示している点も評価したい。切実なテーマを、現場の実相から伝える好企画だった。

増田弘輔・取材班代表の受賞スピーチより

 企画では、記者が数カ月にわたって特定の地域に入り、多くの日本人や外国人の話に耳を傾けました。問題を指摘し、その背後にどういうことがあるかを明らかにして伝え、外国の方とともに暮らしていく社会を実現するための築きになるような記事を今後も目指します。

放送の部

★ 関西テレビ「私はナニモノ?」取材班
代表=司紫瑤・報道情報局報道センターディレクター
ザ・ドキュメント「私はナニモノ?~中国残留邦人の80年~」

関西テレビの推薦理由

 国家間の政治的緊張が人々の間に見えない壁を築き続ける今、本作は切実な問いを投げかける。中国にルーツを持つ入社2年目の若手ディレクターが、戦後80年を機に企画したのは、「○○人とは何か?」という問いだった。
 取材した中国残留邦人たちは、世代を超えて「私はナニモノか」と問い続けている。1世が直面した過酷な戦後史と言葉の壁。その影響は4世の「ルーツを隠したい」という葛藤にまで連鎖し、今なお解消されない「心の壁」の深さを浮き彫りにする。ディレクター自身が思いを重ねた取材対象との信頼関係は、この問題を単なる歴史記録ではない、現代のアイデンティティを巡る問題へと昇華させている。
 一方で、本作は絶望のみを描くのではない。国の壁を超えて命を繋いだ養父母や配偶者の存在を通じ、国家の歴史観や政治を超えた「個と個」の絆や交流の可能性を提示する。
 境界線をめぐる紛争が絶えない世界において、二つのルーツの間で揺れ、「何者である」 と選択することさえ許されない人々の悲しみは、決して他人事ではない。
 埋もれゆく声に耳を澄まし、平和への願いを込めた本作は、分断が進む現代社会において、ジャーナリズムが保つべき視座を提供する。若手ならではの感性と、未来に続く個の可能性に期待し、本作を世に問うべき一作として推薦したい。

授賞理由

 「中国残留孤児」の問題は長く繰り返し取り上げられ、政府の日本での自立した生活への援助(補償)の不十分さが指摘されてきた。そして、高齢化した帰国「第一世代」の人々の多くが亡くなり、現在、第二世代、第三世代以後のあり方が新たな現代的課題として突き付けられている。中国人に対する差別と排斥といった現象が拡大する中、日中両国のルーツの狭間で、周りには明かせない生きづらさを抱えてきた、主人公である若い女性の心の葛藤が巧みに描かれている。そして、国家間の戦争がどれだけの長きにわたり、どれほど深い傷を人々にもたらすかにあらためて気づかされる良作である。

司紫瑤・取材班代表の受賞スピーチより

 みなさんの会社にも隣を見れば外国の方がいるでしょうが、その方たちと普段は仲よくやっていけるのに、(互いの国同士の戦争になれば)戦わなければならないのか、そういうことを考えてきました。改めて平和って何なんだろうということを伝えられたらと思います。

第2回海外取材サポート事業

★朝日新聞大阪本社社会部記者・浅倉拓也(100万円)

[取材テーマ]
①「ヘイトを防ぐ、スペインの反うわさ戦略」
②「難民を負担ではなく人材に、イタリアと日本で」
[狙い]
①日本を含む世界で、移民に対する誤解や偏見が広がり、ヘイトスピーチにもつながっている。これら「うわさ」が市民の間に広がるのを防ぐため、「反うわさエージェント」を育てるなど、地域全体で取り組むのが「反うわさ戦略」だ。発祥のスペインで取材した。
②欧州など先進各国では、難民・移民の受け入れが「負担」だとして反発が広がる。一方で、イタリアには難民の受け入れで過疎化を防ぐ地域もある。日本で難民の就労支援に取り組む団体も併せて紹介し、難民の受け入れを考える。
[訪問先]
スペイン、イタリア、ドイツ
[HPでの展開]
・2026年2月3日にスペインの「反うわさ戦略」をめぐる連載を掲載(全3回)
・2026年3月に、「難民とつくる未来」と題して連載
[紙面展開]
・「反うわさ戦略」の特集記事を、3月22日付の朝刊1面と2面で掲載

・「難民とつくる未来」の連載を、3月16日から夕刊で連載(全7回)

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