第10回坂田記念ジャーナリズム賞(2002年)
(敬称略)
第1部門(スクープ・企画報道)
新聞の部
第2部門(国際交流・国際貢献報道)
新聞の部
該当作なし
放送の部
該当作なし
海外研修補助
・毎日新聞「世界子ども救援キャンペーン」取材班
(代表=中島章雄・社会部副部長)
キャンペーン報道「世界子ども救援キャンペーン」
毎日新聞が1979年に始めた「飢餓・貧困・難民救済キャンペーン」は記念すべき第1回坂田記念ジャーナリズム賞を受賞した。21世紀に入り、難民の中でも特に母親と子どもが苦しい生活を強いられていることに注目し、同じ時を生きる母と子に手を差しのべようと「世界子ども救援キャンペーン」に衣替えした。
2001年10月8日、米英軍がアフガン空爆を開始した日カンボジアの連載を開始。内戦終結後も多くの子どもたちが苦しむ姿を報告し「命の尊さ」を読者に訴えた。キャンペーン開始から4半世紀。平和をつくる営みはまだ続く。
選考委員会では「読者・視聴者に優しいメディアの手本とすべき報道。活字と写真という新聞メディアの特性を十分生かした報道であり社会運動だ」との評価がありました。
昨年の研修
・奈良新聞社「県警問題」取材班
(代表=矢ケ井敏美・論説委員兼編集局長代理)
Ⅰ.鑑真への旅―能「大和上」奉納
平成14年10月8日から11日まで、奈良市の唐招提寺が鑑真の故郷である中国・揚州市の大明寺を訪問し、報道部の桑原理恵記者が同行取材した。鑑真和上来日1250年を記念し、唐招提寺が金春流能楽師・櫻間真理師に鑑真にちなんだ能「大和上」の創作を依頼。これを大明寺で最初に奉納することになり 益田快範長老をはじめとする訪中団が奈良県知事、 奈良市長の親書を携え大明寺を訪れた。
日本では鑑真は幾多の困難を乗り越えて仏教の戒律を伝えたとして知られており、奈良仏教のなかでも重要な存在だが、中国を訪問してみると、日本以上に鑑真の存在が知られていることが分かり、驚いた。中国では、文化大革命やそれ以前の廃仏毀釈などで、仏教の置かれた立場は難しいと想像していたが、大明寺は予想をはるかに上回る大きな寺であるだけでなく、国からも特別に保護されており、日本以上に篤い信仰心に守られていることを感じた。奈良での日本の文化や伝統、仏教美術を担当する記者として、1250年前に唐から日本へ渡った偉大な僧の足跡を訪ねた取材は貴重な体験であったと同時に、1250年の時を経て日本と中国の懸け橋になっていることを実感できた。
掲載は同年10月22日から24日まで3回。
Ⅱ. 韓国・釜山 チヂミ紀行―本場の味を求めて
平成14年11月、 武智功論説委員が取材。
もともと関西は在日韓国・朝鮮人が多く、韓国 (朝鮮)料理はポピュラーな料理の一つになっている。しかし近年のエスニック料理のブームや、2002年のワールドカップ、アジア大会などの影響もあって、韓国(朝鮮)料理は全国的にもさらに身近な存在になってきた。
こうしたなかで韓国料理の「チヂミ」と日本の「お好み焼き」の関係はどのようなものかと、日本と朝鮮半島とは古代から様々な交流があったが、食の文化交流の一例として「チヂミ」を取り上げてみた。
韓国入りして、多くの人に話を聞くうちに、「チヂミ」の類は、宗教儀式もからんだ奥の深い料理であることが分かり、1回の取材ではとうてい全容を知ることはできないと判断、 本紙レジャー面での読み物に仕立てた。朝鮮半島の焼き物を、独自の審美眼で取り上げた、 千利休の時代に「お好み焼き」の起源をもとめ、同時代の韓国の小麦粉料理を紹介した。連載は平成15年4月30日 5月8日、15日付の3回。
Ⅲ. 観光開発の主役たち―絹の道の国 ウズベキスタンを訪ねて
平成15年3月13日から26日までの14日間、社会部の岩野英明記者が平成8年旧ソ連から独立したウズベキスタン共和国を訪問した。
奈良県では、同国から観光開発に関わる人材育成の要請を受けた国際協力事業団 (JICA) の研修事業を、国際協力の一環として受託。平成14年度から5カ年計画でウズベキスタンの観光振興支援の取り組みを始め、14,15年度の2カ年で20人の研修生を受け入れた。シルクロードを代表する世界遺産を有する同国で、観光産業に携わる研修生11人に会い、県の研修で受けた知識や経験は何か、自国での観光振興にどのように役立てているのか取材。 安定した経済発展のため観光振興することは、国民の生活水準を短期間で良くする方法だとする意欲を感じた。世界遺産のあるサマルカンド、ブハラ、ヒヴァの各都市も訪問した。 独立後、急激な変化はないものの、中央アジアに位置するウズベキスタンは歴史的に素晴らしい遺産が点在する。シルクロードに興味があり、中央アジアにおける文明のダイナミズムに魅力を感じている人には楽しめる地域で、歴史ある観光資源は観光面からも将来有望な国だと思う。
連載は4月10日~13日、19日、21日、23日付の7回。
・関西テレビ放送「週末家族―ずっとそばにいて」迫川緑記者
NGO「日越医療交流センター」活動報告 迫川記者
大阪の阪南中央病院を中心としたNGO「日越医療交流センター」は毎年、ベトナムの農村地域に診療所を建設し、住民診療を行っている。枯葉剤による健康被害の実態調査と無医村地域への医療支援が目的だ。ドキュメンタリー番組の取材をさせていただいたことが縁で今回ご一緒させていただいた。
1970年生まれで32歳。戦争が終わるころ枯葉剤を浴びた赤ちゃんが今、生殖期にさしかかっている。あるいは兵士たちの孫が生まれている。そしていまだに多くの先天奇形児が生まれている。
枯葉剤に含まれるダイオキシンの影響が大きいことはわかっているが、それが、今、生まれている赤ちゃんにも及んでいると言えるのか。孫の代になっている赤ちゃんにまで及んでいると言えるのか。大国アメリカがうやむやにしたい中で、どこまでをダイオキシンによるものであるかと立証するのはとてつもなく難しい。
そこで重要になってくるのが、ベトナムの人たちの基礎データである。血中ダイオキシン濃度、その他の指標、抱えている症状……できるだけ広範囲に、長い期間にわたって集めたデータが生きてくる。これを目的に日越医療交流センターは地道な活動を続けている。もちろん検査だけが目的にならないよう、ベトナム政府の要請にこたえる形で無医村地域に診療所を建設し、医療相談を行っている。
今回訪問したのは北部の農村のノンハ村。枯葉剤散布地域ではないが、北部からも多くの兵士が駆り出されている。もちろん医者などひとりもいない。次から次へと患者が現れた。
こんな山深い農村で、こんなにも障害を持つ人たちがいるのかと驚いたが、それ以上に、 そんな障害を持ちながら、一度も医者にかかっていない人がこれまた多いのに驚いた。彼らの支援も砂地に水をまくようなむなしさが残る。
だが、医師も看護師も妙に元気なのだ。阪南中央病院が経営難に追い込まれながらも理想の医療を追求しようとしている様を2カ月にわたり取材させていただいたが、みな毎日ぐったり疲れているようだった。そんな彼らが、うだるような暑さの中、実に楽しそうにしている。聞くと、「ベトナムの子どもたちをみていると、なんか元気が出るんですよ」。確かに、 子どもたちの強い目の輝きをみているだけでこっちまで元気になってくる。「迫川さんも病院に取材に来ている時より元気ですね」と言われてしまった。
自分でビデオカメラを持ったことで、被写体に近づく楽しさも味わえた。本当にこの人たちは医療が好きなんだなあと感心したが、自分も根っからのテレビ屋だなあと感じることができた。いい経験をさせていただけたと思っている。
我々メディアは、新しいことに目を奪われがちで、継続する力に欠けているところが多い。 彼らの医療支援は、夏休み代わりの気楽なものというところもあるのだろうが、地味ながら息の長い交流になっている。14年目を迎え、診療所も21カ所を数えた。
「継続は力なり」。座右の銘にして記者活動を続けていきたいと思う。
番組は2002年9月26日スーパーニュース「ほっとカンサイ」で放送。
第10回坂田賞授賞理由
第1部門(スクープ・企画報道)
新聞の部
【坂田記念ジャーナリズム賞(2件)】
★毎日新聞大阪本社「BSE問題」取材班
代表=黒川昭良・社会部副部長
スクープキャンペーン企画「BSE問題」
推薦理由
日本におけるBSE(牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病)の発生とそれに続く雪印食品の牛肉偽装事件、相次ぐ食品表示の偽装発覚は国民の台所を直撃し、「食」に対する消費者の信頼は完全に失墜した。取材班の一連のキャンペーンは農林水産省を中心とする国の「不作為の責任」追及と、利益至上主義の食品メーカーの不正を糺し、安全、安心な食品を消費者の手に取り戻すことに眼目があった。
キャンペーンは3部構成。第1弾の「EU最終報告書の全文入手」は国内でのBSE 発生の危険性を警告しながら、業界をおもんばかる農水省の圧力で公表されなかった「幻の文書」をスクープしたもの。農水省が早い段階で危険性を確認できたことを示す超一級の資料である。続く「雪印食品の牛肉偽装事件のスクープ」は、BSE対策として国が打ち出した牛肉買い取り制度を悪用して、同社が輸入牛肉を「国産」と偽装して申請していたことを写真入りで特報した。「JAS法改正キャンペーン」は雪印事件をきっかけに相次いで発覚した食品偽装をテーマに、改正法がザル法であることを明らかにし、法改正の必要性を世論に訴えた。 その成果は昨年7月施行の改正 JAS法に結実した。
授賞理由
選考委員会では「行政による民衆軽視の姿勢をBSE問題を契機に内部資料によって明らかにした優れたスクープで、それを下敷きにした連載報道を高く評価する」との評価がありました。
★産経新聞大阪本社社会部「改革の挑戦者たち」取材班
代表=竹田徹・社会部次長
連載企画「改革の挑戦者たち」
推薦理由
2002年は構造改革がテーマになった。小泉首相が掲げた「聖域なき構造改革」のもと郵政民営化や道路公団改革の論議が沸騰したが、実は身近なところに改革の手本があった。少子化時代を迎え大学経営の行く末に暗雲が漂うなか、キャンパス移転や新学科創設、産学協同路線によって、関西の私立大学のなかでいち早く「勝ち組」となった立命館。そして大胆な行財政改革によって職員に「住民本位の行政」という意識を徹底させ、地方の時代のトップランナーにのしあがった三重県である。産経新聞夕刊で「改革の挑戦者たち」シリーズとして長期連載された「立命館研究」と「三重県研究」は二つの組織の改革のプロセスを追い、トップに立つ立命館の川本八郎理事長、三重県の北川正恭知事のリーダーシップ、その決断と苦悩、抵抗勢力との暗闘など秘められたドラマを綿密な取材とノンフィクションの手法で描き出した。
組織とは人間の集まり、血の通ったものであり、つまるところ構造改革とは、組織を構成する人たちの意識をいかに変えるかであろう。とかく数字が一人歩きしたり、抽象論や政治的対立に陥りがちな改革の論議に、具体的な道筋をつけ、あすの日本をイメージさせた企画として、読者の高い好評を得た。
授賞理由
選考委員会では「二つの取材は、現在なお改革のスピードの遅い日本にあって、やりようによっては改革の実現が十分可能であることを立証した」との評価がありました。
放送の部
【坂田記念ジャーナリズム賞(1件)】
★読売テレビ放送報道局記者・杉山亮
NNNドキュメント’02「見捨てられた理由~C型肝炎 200万人の闘い~」
推薦理由
C型肝炎ウィルス(HCV)の感染者は200万人以上。原因は予防接種時の注射器使い回しや非加熱製剤の放置、鍼灸治療、歯科麻酔など。ピアスも危険だ。患者には何の落ち度も無い「医原病」。「1985年には発がんの危険性がわかっていたが、予算の都合で無視された」 と学者は指摘する。治療法が確立しておらず、検査にも費用がかかるという理由で、国はあえて「無策」を選択したのだ。
自らの医療行為で感染した大阪市内の開業医、三浦捷一さん(63)は「自分はC型肝炎の被害者でもあり加害者でもある」との思いから、肝がん再発予防新薬の早期認可を求めて奔走している。「患者に自己決定権を」との叫びは、まだ届いていない。彼の生きる姿を軸に 「国の無策」に迫った番組である。
授賞理由
選考委員会では「肝がん発生の危険につながるC型肝炎の恐ろしさをよく伝えている。 政府の無策を訴え、改めて医療行政の問題点をあばいた」との評価がありました。
★NHK大阪放送局文化部「ウチらの子どもは60人」取材班
代表=泉谷八千代チーフプロデューサー
NHKスペシャル「ウチらの子どもは60人~里親夫婦の子育て人生~」
推薦理由
家庭崩壊は今、最も深刻な問題になりつつある。そんな時代にあって里子を養育し続ける一組の夫婦を通して家族のあり方を問いなおした。大阪市内で町工場を経営する永井夫妻はこれまで60人の里子を育ててきた。ここにやってくる子どもたちはみな複雑な家庭事情を背負い心に傷を負っている。しかし、毎日全員そろって食事をし寝食をともにするうち、無表情だった子どもたちは明るさを取り戻し、喧嘩を繰り返していた子どもたちも落ち着きを取り戻す。その秘密は、子どもたちのことを心から思いやりながら、あたたかく時に厳しくふるまう永井夫婦の何気ない接し方だ。
愛情あふれる夫妻と里子たちのふれあいを描いた本番組を通して、見失われつつある家族の大切さ、家族の愛情の果たす役目の大きさがおのずから浮かび上がってくる。
授賞理由
選考委員会では「里親と子どもたちの自然な姿にカメラがここまで接近できたのがすごい。いろいろ考えさせられる優秀作で、感動した」という評価がありました。